1998年、フランスのマリー=フランス・イルゴイエンヌが「モラルハラスメント」を提唱しました。この時に発表した著書、「モラル・ハラスメント ー人を傷つけずにはいられないー」によって、人々が気が付いてはいたけれど言葉にすることが難しかったハラスメントを言葉によって表すことができるようになり、大きな反響を呼びました。
その後、フランスでは、2002年1月17日の労使関係現代化法で職場のモラルハラスメントに対処する法規定を導入します。
2014年8月4日には、職場におけるハラスメントに対して、懲役2年、3万ユーロの罰金が科せられるようになり、
2020年7月30日には、家庭内のモラルハラスメントに対して3年~5年の懲役、4万5千ユーロ~7万5千ユーロの罰金が科せられるようになりました。
フランスにおけるハラスメントの法的定義
ハラスメントとは、被害者の身体的又は心理的に有害な結果をもたらす言葉や行動の繰り返しです。
暴力の一形態であり、それぞれの言葉や行動を個別のものとして見なしてはいけません。
労働者の健康やキャリアに害をもたらすことは、2年間の懲役と3万ユーロの罰金によって罰せられます。
法律は、加害者と被害者の関係性、または嫌がらせが行われる環境について例外を設けてはいません。カップル、同僚、隣人、学生、又はその他の人間関係であるかどうかにかかわらず、嫌がらせをした人はすべての場合において罰せられます。
罰則は、加害者の行動の範囲と頻度に応じて決められます。
フランスにおけるモラルハラスメントの定義とは?
モラルハラスメントを認定するには、3つの構成要素を満たさなければなりません。
1.繰り返し行われる
- 嫌がらせが少なくとも2回繰り返される。
- 繰り返される行為は、最大2年の間隔があいていても認められる。
- 嫌がらせをされていると認められる期間が17日以上ある。
2.加害者がいる
人によって行われている行為であり、例えば職場の悪い雰囲気などから生じたものは認められません。
3.加害者の行動が被害者に悪影響を与える
モラルハラスメントは、ある人の繰り返しの行動が、別のある人の権利と尊厳を侵害します。被害者の身体的又は精神的健康に影響を及ぼしたり、キャリアを危険にさらすものと定義されています。
どんな行為がハラスメントに当たるのか?
<ハラスメントの種類>
- 侮辱的な言葉による攻撃
- わいせつな言葉
- 脅迫
- 悪意ある電話、手紙、メール
- 職場や自宅への訪問
間接的な行為も罰則の対象
電話による嫌がらせは、加害者にとって、被害者の心の安らぎを妨げることを目的とし、悪意を持って繰り返し呼び出すことです。「繰り返される」ことは、ハラスメントを認定する上で不可欠な部分です。
電話による嫌がらせの定義は広く、留守番電話に残された無言の通話やメッセージにも適用されます。
電話による嫌がらせは、懲役1年、罰金15,000€が科せられます。
モラルハラスメント加害者への罰則は?
フランスの法律は、あらゆる関係でのハラスメントにおいて刑法で定められていますが、その中からパートナー間のモラルハラスメントについてのみ紹介します。
家庭内やカップルにおけるモラルハラスメントの罰則
カップル内でのモラルハラスメントは心理的暴力と見なされます。
この形態の暴力は10人に1人の女性に被害が及んでいる身体的暴力に先行する暴力だとされています。
2010年7月9日の法律の成立以来、モラルハラスメントは家庭内暴力に分類され、犯罪と定義されています。刑法は、カップル内のモラルハラスメントの加害者に対する厳しい罰則を規定しています。被害者が負った被害の深刻さに応じて45,000~75,000€(日本円で約600万~1000万)の罰金、3年~5年の懲役が科せられます。
夫婦間のみならず、同居しているカップルや、事実婚カップルにも適用されます。
ストーカーが元配偶者であっても適用されます。
被害者がやるべきこと
あなたが配偶者からのモラルハラスメントの被害者である場合、身体的暴力にエスカレートするのを防ぐために、まず保護命令を求める必要があります。目的は、加害者から離れ、あなた自身とあなたの子どもを守ることです。
- 夫婦の家を出る
- 被害届を出す
- 裁判官からの保護命令を申請する
- 離婚または別居を申し立てる
<保護命令申請方法>
- 離婚手続きを開始していない場合は、被害届を出し、裁判官に保護命令を求める必要があります。証拠は、経済的状況を示すものと共に必要不可欠です。保護命令によって裁判官が講じた措置は最終的なものではなく、暫定的なものであることに注意してください。保護命令は、6カ月間有効であり、離婚に必要な策を講じる時間が与えられます。期間が終了すると保護の恩恵を受けることができなくなります。
- 離婚の申し立てと同時に保護命令の申請をすることもできます。
<証拠の収集>
保護命令の恩恵を受けるためには、夫婦間でのモラルハラスメントの被害者であることを証明できなければなりません。
証拠となるもの:診断書、書面による証拠、証人陳述書など。
知っておきたいこと
あなたが夫婦内でのモラルハラスメントの被害者である場合、夫婦の家を出ることが認められています。この場合、あなたの非は問われません。この場合、家を出ることが正当である事実を説明するため、警察に被害届を出す必要があります。
まとめ
フランスでは、モラルハラスメントは心理的暴力として犯罪だと定義されています。法律により被害者は守られ、被害者が加害者から逃げることも認められています。
日本でもモラルハラスメントが被害者の尊厳を著しく傷つけ、大きな被害を被る犯罪として罰せられる日が来ることを願っています。
参考:https://www.legifrance.gouv.fr/codes/id/LEGISCTA000006165282/
https://www.justifit.fr/b/guides/droit-penal/droit-penal-harcelement/
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