私自身、自分が「モラハラ」の被害に遭っているということが、別居をしてみるまで分かりませんでした。
モラハラは、セクハラやパワハラと違って近くにいるほど気づきにくく、また経済的なDVや子どもがいるなどの環境では、関係を維持するために、自ら加害者を「いい人」だと思い込もうとする被害者の心理も働きます。
モラハラとはどういったことか、またどこからがモラハラ被害といえるのか、モラハラ被害に気がつくためには何をしたらいいのかを自身の体験を踏まえて解説していきます。
1.モラハラ(モラルハラスメント)の定義とは
モラハラとは、モラルハラスメント。フランスの精神科医「マリーイルゴイエンヌ」が1998年に「モラルハラスメント 人を傷つけずにはいられない」という本を発表し、この本の中で提唱しました。
言葉や態度によって、巧妙に人の心を傷つける精神的な暴力=モラル・ハラスメント
モラル・ハラスメント 人を傷つけずにはいられない マリー=フランス・イルゴイエンヌ
マリーイルゴイエンヌの著書を読むと、ハッキリと「モラル・ハラスメントの加害者は<自己愛的な変質者>である」という言葉が出てきます。
自己愛的な変質者とは、自己愛性パーソナリティ障害の中でも、他者を破壊することに喜びを感じるタイプであるとしています。
自己愛性パーソナリティ障害については下記の記事を参考にしてください。
マリーイルゴイエンヌは、モラハラをする人を自己愛性パーソナリティ障害の中でも「マキャベリズム」を兼ね備えた人だとして、かなり限定的にモラハラを定義しています。
しかし、現在日本で使用されているモラハラは、コミュニケーション不全や防衛機制が原因であるものも含められ、必ずしも「他者を破壊するために」行われているものに限りません。
イタリアでは最高裁判所がモラハラ(Mobbing)の概念として次のことを明言しました。
”対立関係において不平等が存在する場合に生じ得る病的な状況で、被害者が特定の人に対して常に劣等な立場にあるもの”
その他イタリアでは、夫婦間におけるモラハラについては、暴言や侮辱、イジメ、貶める態度の他、パートナーを家から追い出したり、不利な条件での別居に合意させるために迫害することも含むとしています。
家族観のモラハラについては、心身に影響を及ぼす繰り返し行われる嫌がらせや威圧的な行為、特定の行動としています。どんなものがMobbingに該当するかどうかは個別の判断(裁判官が判断)が必要であるとしています。
2.モラハラをする人はどんな人?
王様のようにふるまうことが許されて、人から注目されて、常に賞賛されるような理想的な世界をつくろうとします。その世界の「登場人物」として他人を自分の望み通りに振舞うように言葉や支配を使って操ります。
いわばモラル・ハラスメントの加害者というのは、自作映画の監督のようなものです。周囲の人は、その映画に勝手に出演させられ、モラハラ加害者の望み通りの役割を強要されます。そこではモラハラ加害者の都合に合わせ、善人は悪人になり、正しいことは間違ったことになります。常に加害者は「善人」であり「正しい」世界です。
DVもモラハラも目的は「相手を支配し、コントロールすること」にあります。
上記の著書の中では、家庭内のモラルハラスメントと職場のモラルハラスメントで具体的な手口の内容を分けて記載しています。ここでは、家庭内のものについて、具体的にどういったことがモラルハラスメントにあたるのかを挙げてみましょう。
モラハラを受けていても、「モラハラかどうかわからない」「私の思い込みのせいかも」と思い、被害を自覚できないケースも多いのがモラハラです。実際のモラハラ例を参考にして、当てはまっていれば、モラハラを受けていると思って良いでしょう。
3.モラルハラスメントの具体的行動
(1)自分の方が優位に立ちたがる
モラハラ加害者は自分を上下関係の上に、被害者を下の立場にしようと仕向けます。
マウンティングをして、自分がいかに被害者よりも優れているのかを誇示しようとします。
被害者が周囲から尊重されたり、自分よりも優れているところを見せつけられると、強く批判をし、価値を下げようとします。被害者の成果は無視をし、無かったことにします。
・困らせる目的で発言する
・被害者が褒められると強く批判する
(2)直接的なコミュニケーションを拒否する
気持ちを言葉で伝えようとせずに、不機嫌な態度、冷たい視線、無視、否定的なニュアンスを含む言葉(嫌なあだ名など)を使います。
相手が何かに怒っている、批判していると感じるけれど、直接的な批判をされないために被害者は何があったのか、どんなことに怒っているのかが分からないままです。
・対話をせず、不機嫌になることで周囲をコントロールしようとする
・対話の時に顔を合わせない、背を向ける
・嫌なあだ名で呼ぶ
(3)相手が存在しないようにふるまう
加害者は被害者の人格が存在しない、まるで物体化のように扱います。また、存在そのものを無視することもあります。耳を貸さないために、被害者が別れたいと思ってもそのことを話し合うことすらできません。
・必要な説明をしない
・手紙などの返事を拒否する
・被害者との接触を徹底的に避ける
(4)子どもを利用して嫌がらせをする
子どもがいる場合には、子どもをモラハラの手口に利用します。我が子ですら彼らの中では愛するべき存在ではありません。
子どもを利用した嫌がらせは、子どもが小さく別居親と交流がある限り、離婚後も続きます。
・子どもに悪口を吹き込む
・子どもに悪口を伝聞させようとする
・今の状態を作り出したのは被害者だという
・子どもたちについての取り決めをスムーズに決めれないように阻止する
(5)自分には責任がかからないようにする
自分がしてしまっている加害行為について非難された時には、
「会社で失敗をしてイライラしていた」
「上司から不当な扱いをされていて苦しい時だから協力してほしい」
「今の言葉は俺ではなく俺の母親が言っていた」
自分の加害行為の原因は自分以外にあるように責任逃れの言葉を言います。
離婚をした場合は、離婚の原因を被害者にあるように周囲に言いふらし、それがまわりまわって被害者の耳に届くこともあります。
・保身のための嘘をつく
・事実を捻じ曲げる
(6)自分の考えは言わない
被害者が加害者と共依存の関係に陥ってくると、被害者は加害者に「許可」をもらう行動を起こします。
この時に、加害者は自分の責任にならないようにあくまでも被害者が「自己決定」をしたように誘導します。
被害者の意見に批判をしますが代替案を出すことはありません。
被害者が決めたことを「お前はそれでいいと思っているんだな?」と批判のようにもそうでないようにも取れるセリフを投げかけ困惑させることもします。
・批判をするが、自分の考えは言わない
・疑問に疑問で返す
(7)意地悪をして悪意を示す
モラハラは、被害者を破滅させようとする目的で行われています。
モラハラには「悪意」があり、被害者が嫌がること、困ること、怒ること、傷つくことをわざと行います。
・わざと物を隠す、捨てる
・被害者の部屋やプライベートのものを覗く、勝手に触る、動かす
・嫌だということを繰り返しする
・返事をしないことで相手を困らせる
(8)被害者の立場に身を置く
これだけの悪いことをさんざんやっておきながら、彼らは反省したり、罪悪感を覚えるどころか、「自分こそが被害者だ」と身勝手な嘘をつき、被害者をさらに追い詰めます。
「自分はこんなひどいことをされてきた」「親は本当の親ではない」などと過去の被虐体験などを語り(中には嘘を持ち出し)、被害者は加害者に同情し、彼らのひどい行為を許すように誘導します。
被害者は加害者に傷つけられておきながら、自分の傷を癒す間もなく、加害者の(嘘の)傷を癒す役目を負わされます。
・被虐体験を語る
・同情を誘う
(9)共依存の関係
モラハラ環境に長く居続けることによって、加害者と被害者の間には共依存の関係ができ上っていきます。
被害者がこんな状況にある時には共依存を疑ってみましょう。
・被害者が加害者に合わせて習慣や行動を変えている
・加害者の感情を自分の感情だと錯覚する
・相手の行動の意図をくみ取ろうとする
・悪い環境だと気づいているのに抜け出すことができない
・モラハラ加害者から去ろうとすることは悪いことだという罪悪感がある
モラハラ加害者の特徴については、下記の記事でまとめています。合わせてごらんください。
4.モラハラかどうかの判断
上にあげた具体的な行動でも当てはまっているものと、当てはまっていないものとあるケースが多く、「すべてに当てはまっていないから、モラハラではない?」と思うかもしれませんが、一つでも当てはまっていたらモラハラです。
(1)夫婦喧嘩との区別のしかた
一般的に、モラハラが理解されにくい理由の一つには、暴言があっても夫婦喧嘩の範疇とされてしまうことです。
夫婦喧嘩かどうかを客観的に判断するためには、明らかに夫婦間のパワーバランスが崩れているかどうかにあります。
モラハラを受け続けている被害者は、本人も無自覚のまま加害者にコントロールされ、洗脳されていきます。
もしあなたが、夫や妻に対して恐怖を感じていたり、怒らせないように発言を控えたり、相手の機嫌が悪いときには絶望するほどの心理状態に陥っているのであれば、そこには対等な夫婦関係はありません。
そもそも喧嘩というのは対等な関係でしか成り立たずモラハラを受けている場合は、対等ではなく従属関係にあります。それは普通の夫婦ではありません。
(2)モラハラ被害者を自覚するためには
モラハラ被害者は、相手の言動によって洗脳状態にあり、相手に対して疑問を感じることが難しい場合が多くあります。
モラハラ被害者である自覚を持つためには、自身が感じているストレスや相手に対する違和感から探っていくといいでしょう。
夫(妻)に対して、恐怖を感じている、いつも機嫌をうかがって過ごしている、そういった傾向がある場合は黄色信号です。
私自身、別居するまで自身がモラハラを受けているとは思っていませんでした。しかし、一緒に暮らしている最中から違和感を感じていました。
- いつも夫の機嫌を伺っている。(精神的支配)
- 夫が帰ってくると動悸がする。(ストレスの対象)
- 外出していても家のことが気になり落ち着かない。(過度な束縛)
- 夫の機嫌で家の空気が左右される。(絶対君主的立場)
- 夫が喜ぶことが自分の喜びのように感じる。(共依存)
- 夫と居ると自分が人間でないような扱いを受けていると感じる。(物体化)
(3)相手との関係に違和感を感じたら「モラハラ」を疑ってみよう
私が感じていた違和感というのは、「夫と話し合いをしようとしてもできない」というものでした。
問題を解決するために話し合いをしたいのに、「お前は頭がおかしい」といわれ、自分の人間性を否定されて終わり、何事も解決されないという結婚生活が続きました。
話し合いを拒否する理由は、夫は、「お前の言い方がきついからだ!」と責任転嫁し、話し合いができない理由を一方的に私が悪いことにされていました。
そこで、「言い方がきつく感じて話すことが出来ないのであれば、手紙にしよう」と代替案を出しましたが、結局はそれも拒否されました。
夫としては、何か改善したくて怒鳴っているわけではないため、こちらが改善するための代替案を出しても受け入れるはずもありませんでしたが、結婚生活中はそのことに気づくことが出来ませんでした。
どんな問題も最終的に「お前の我慢が足りないからだ」という結論で終わり解決に至ることはありませんでした。
今までの人生の中で明らかに他の人と比べて夫との関係は異常であり、「こんなに話が通じない人は初めてだ」と思っていました。
同じように感じている方がいらっしゃったら、あなたが抱えている問題は実は相手一人の問題であり、あなたが思っている以上に解決が困難で厄介な問題かもしれません。
(4)被害を最小限にするためには、早めに気づくことが大事
最初は耐えられるくらいのモラハラでも、必ずモラハラは進行していきます。
そして、長年、進行したモラハラを受け続けることによって、被害者は深い心の傷を負い、回復にも長い時間がかかってしまいます。
子どもがいる場合は、子どもの人生にも必ず影響を与えます。
被害を少なくするためには、早めに「モラハラ被害者であること」に気づくのが何よりも大事です。
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