元夫と出会ってまだ間もないころ、お互いの過去の話や幼少期の話をしたところ、共通点が多くあり親近感を覚えたことがお付き合いを始めるきっかけでした。
他愛もないようなエピソードや同じ習い事をしていたこと、幼少期に体が弱かったことという些細なことですが、その数が多かったことで親しみを感じていました。
私もはっきりと覚えているわけではありません。でも同じだと親しみを感じたエピソードが本当に彼のものだったのか、結婚してから次々と違和感を覚えることが増えてきました。
過去のエピソードは本当に元夫のもの?
私たちの共通のエピソードというのはそれ自体が特別なものではなくどこにでもあるようなありふれたものです。
特別その事柄をよく知っていないと話せないものではありません。嘘がうまい人であれば、その場でエピソードをつくって、さも本当のことのように話すことができるようなそんな話題でした。
ドライブに出かけることが多かったので車内で会話を途切れさせてはいけないと思い、趣味の話、好きな音楽の話、仕事の話など、とにかく自分の話をしたと思います。そして私が話した話に「俺もそうだった」と夫が同じエピソードを教えてくれることが多くありました。その話を聞いて、なんて共通点が多いのだろうと思っていたのですが、もしかしたら共通のものだと言われたエピソードは夫のものではなかったかもしれません。
違和感を覚えたのは結婚してから
私が言ったことが「もともと知っていたこと」になっていた
週末に会うだけの交際期間と違い、毎日一緒にいると話のほころびというのはよく見えてくるものです。最初に違和感を覚えたのは、私が以前に夫に教えたことを夫が「前から知っていたこと」に変わったことからでした。
夫は結婚前に料理を一切したことがなく、料理経験のある私が夫に料理を教えることが多々ありました。この時すり替わったエピソードはちょうど、私が教えた調理方法についてでした。
夫は、私が夫に教えた調理方法を全く同じフレーズで同じ内容を録音を再生するかのように以前から知っていた知識として披露しはじめました。さらには、私がその調理方法を全く知らないであることを前提に話し始めたのです。
誰かから教えてもらった知識を、また別の誰かに教えたくなる欲求は人間だれしも持ち合わせていると思います。しかし、それを教えてもらった当人にやるとなると意味合いが変わってくると思います。
そしてなによりも恐ろしかったのが、私が夫にその方法を教えたのがわずか2、3日前のことだったということでした。
たった数日の間に、私がもともと結婚前から作っていた料理は私が全く知らないものになり、一度も作ったことがなかったはずの彼がそれを以前から知っていたことに変わっていました。
過去の自分を否定するかのような発言
元夫は結婚前に、大学時代に占いサークルに所属していたと話していました。
ある日帰り道に手相占いの雑誌を買って帰ったときのことです。買ってきた雑誌を見せて一緒にお互いの手相を見ないかと夫に言ったところ夫からは、
「占いなんて信じていたらみんなにバカにされるよ」
と一言。占い自体を全否定する言葉が返ってきました。
占いサークルでタロット占いをしていたと言っていた人がです。
私は「みんなって誰なの?その人の前で占いの話をしたらきっとバカにされるから前もって誰か教えて。」と咄嗟に応えました。夫はすぐに黙ってしまいました。そのみんなが誰なのか本当に知りたかったわけではなかったので、バツの悪そうな夫を見てそれ以上追及するのはやめました。結局本は開くのがバカバカしくなり袋の中に戻してこの話題を替えることにしました。
よくよく考えてみたら、一度も夫に占いをしてもらったことはありません。占いサークルの内容もある時はタロット占いであったり、ある時は手相占いであったり、話の内容に整合性がなかったようにも思いますが、今となってはハッキリしたことも覚えていません。
結婚を機に変わったのは「今の彼」だけでなく「過去の彼」も
結婚を機に、突然モラハラが始まりました。今まで声を荒げたところを見たことがなかった彼が顔色を変えて机や壁に頭を打ちつ受ける姿を見たときの衝撃は今でも忘れられません。
文字通り「人が変わってしまった」と元夫のことを認識していました。
しかし、変わったのは今の彼(結婚後の彼)だけではなく、夫が話してくれた過去のエピソードもがらりと変わってしまったのです。
夫からは、幼少期に親から怒られた際に倉庫のような場所に閉じ込められたり、家から閉め出されたり、怒鳴られてきたことがあるという話を結婚前に聞いていました。そして「親が怒ったときは本当に怖かった」とも聞いていたのです。
子どもが生まれた後、夫が子どもに対して怒りをコントロールできずにひどく怒鳴ったり暴れたりすることで、過去に聞いたエピソードの話を問いかけたことがあります。
私はその時に自分が嫌だと思った気持ちを思い出して、子どもに同じ思いをさせないでほしいとお願いするつもりでした。
しかし、夫は突然「親は自分の一番の理解者である。怒鳴られたことなどない。」と言い出したのです。
結局夫は、自分の爆発ともいえる怒りの感情の原因を「自分の未熟さ」だと結論付けて終わりました。夫自身の口から語られたエピソードは、夫自身により否定されてなかったことになりました。
本当の過去はどれ?正体の分からない元夫
過去は終わったことではありますが、過去の蓄積が今現在の自分自身をつくっています。過去に飛んだ主人公が過去を変えてしまったことで、未来まで変わってしまうというSF映画があるように、過去から今、今から未来へと物事は1つの軸で繋がっている連続体であり、過去と今は切っても切り離せない関係です。
確かめようもないことですが、もしかすると結婚前から夫が自分自身のエピソードとして話していたエピソードは実際は他の人のものだったのかもしれません。そして、私との共通エピソードは、私の話に便乗しただけだったのかもしれません。しかし、その時は週に一度程度会うだけだったので、夫の言うことの整合性の有無までは判断できませんでした。私が過去のエピソードを聞いて知ったつもりになっていた夫は実は架空の人物で本当は存在しない人だったかもしれません。
言っていることが数日単位でコロコロと変わり、その場その場で自分の都合のいいようにも過去を書き換えることができる人。
いまでも、彼がどういう人物であったのかがよく分からないままです。
モラル・ハラスメントの加害者は、他人という鏡の中に自分の姿を虚しく捜している、ただ像を作り出す機械にすぎないのである。
モラル・ハラスメントの加害者には本当の意味での感情がない。~(中略)~ <個人史>を持つこともできない。
モラル・ハラスメント 人を傷つけずにはいられない マリー=フランス・イルゴイエンヌ著
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