身の周りの人の厄介な嘘に振り回されていませんか?
すべての嘘が悪いわけではありません。嘘によっては、人のためになる場合もあります。
しかし、嘘が原因で自分の評判が貶められ、悪人に仕立て上げられたり、コミュニティから追い出されて名誉や人間関係、あるいは金銭などを失う可能性だってあります。
そういう悪意のある嘘をつき、嘘を人を攻撃する武器として使う人もいます。
また嘘の頻度があまりに高く、話している内容のほとんどが嘘である人もいます。その場その場で嘘をつき、つじつまが合わなくなっていても平気で嘘をつき続ける人です。数週間で親族が立て続けになくなったり、お付き合いをしている数年間で、父親が二度死んだりするような嘘を聞いたことがあるでしょうか。本人の過去の経歴が話の度に変わり、専門学校卒が短大卒になり、最終的には大学院卒になったりします。このように嘘をつき続けるうちにどんどんと嘘のレベルが壮大になっていくことは頻度の高い嘘をつく人によく見られるそうです。
これらの例のように嘘によって日常に何らかの支障をきたす場合、それは病的な嘘つきであると言っても過言ではありません。
なぜ彼らは嘘をつき続けてしまうのでしょうか。
ここでは病的な嘘つきについて見ていってみましょう。
嘘をやめられない人たち
「虚言癖、嘘つきは病気か ― Dr.林のこころと脳の相談室特別編 impress QuickBooks虚言癖、嘘つきは病気か ― Dr.林のこころと脳の相談室特別編」という本では、あらゆる嘘つきの人のエピソードが掲載されています。病的な嘘に焦点を絞った本です。
病的な嘘つきの定義とは?
この本の中の嘘をつく人々は、普通の人がつく嘘とその嘘の内容や頻度が全く違います。そして、「たくさんの嘘をつく」「普通では考えられないような嘘をつく」この2つの場合を病的な虚言と定義しています。
- たくさんの嘘をつく
- 普通では考えられないような嘘をつく
病的な嘘つきの他の特徴とは?
上の2つの特徴以外にも病的な嘘つきに見られる特徴がいくつかあるそうです。しかし、それらは「必ずしもすべての病的な嘘つきに当てはまるわけではない」ということで定義からは外されていますが、病的な嘘つきによく見られることが多いことから「キーワード」としてあげられています。
病的な嘘つきに見られる特徴は下記のようです。
- かなり細かい話を作り上げる
- ありとあらゆることで嘘を繰り返す
- 外見は嘘つきに見えない
- 巧みな舞台設定
- 虚言の瞬間は無自覚
- あとからは虚言という自覚あり
- 自己顕示
- 虚実の混乱
- 後天性 or 先天性
- 自己改善努力
- 自己愛性パーソナリティ障害
- 演技性パーソナリティ障害
- 境界性パーソナリティー障害
- 虚偽障害
- 未熟
- 自我肥大
- 増幅促進
- 対人操作性
- 我こそは被害者なり
- 独自の倫理道徳観
- メリットの欠如(虚言のための虚言)
- 懲りない
- 甚大な被害
- 部分承認
- 自己正当化
- 虚を実と確信する
- 攻撃性
- 撤回拒否
- 衝動コントロールの障害
- 生活必需品
- 反社会性パーソナリティ障害
- 良心の欠如
- 行動障害
これらのキーワードのどれに当てはまるかを見て見ると、あなたの身近な人がなぜ嘘をつくのかが見えてくると思います。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
(1)かなり細かい話を作り上げる
嘘つきの人の中には、本当の話かと信じてしまうくらいエピソードを詳しく作り上げる人もいるようです。自分の名前や職業だけではなく、所属している部署名・上司の名前、職務の詳細などを嘘をついているとは思えないほどすらすらと話すケースもあるようです。
(2)ありとあらゆることで嘘を繰り返す
特定の物事に対してだけ嘘をつくケースもあるようですが、多くの場合は嘘のジャンルや場面などは特定されずにありとあらゆることで嘘をつくケースが多いようです。
(3)外見は嘘つきには見えない
病的な嘘をつく人であっても外見は普通であり、話す内容が嘘だと分かって初めて病的な嘘つきであるということが分かることはよくあるそうです。普通に見える人であっても病的な嘘つきがいるということです。嘘つきは見た目からは判断できません。
(4)巧みな舞台設定
口調や話のタイミングなども嘘のために完璧に仕上げること。堂々と話すのでとても嘘つきには見えません。
(5)虚言の瞬間は無自覚
病的な虚言者の中には、嘘をついているときは嘘をついている自覚がないように見える人がいます。たとえば、(6)のケースで、自ら医者にかかりに行きながら、いざ受診したときには、医者の前では全く別の受診理由を話すこともあります。
(6)あとからは虚言という自覚あり
自分に異常があると認めて、「嘘つきを治したい」と言うケースもあるようです。
(7)自己顕示
虚言の動機に「自分をよく見せたい」という自己顕示欲があります。
(8)虚実の混乱
自分でもどれが真実でどれが嘘なのかが分からなくなっている状態。たとえば虐待を受けた被害者が、自分の受けた被虐体験を過去の事実なのか、自分の妄想なのかが分からなくなっているケースなど。(解離症状)
(9)後天性 or 先天性
育った環境が虚言の原因の一つになっていることもあります。一方で、幼いころから嘘をつき続けている人の場合、先天性の可能性もあります。
(10)自己改善努力
嘘つきを治したいという気持ちがあるかどうかです。嘘つきの人の中には、何とか直したいと努力をする人もいれば、安住の地として虚構の世界の方に住んでいる人もいて、嘘にどう向き合っているかは個人差がかなりあるようです。
(11)自己愛性パーソナリティ障害
病的な嘘つきとパーソナリティ障害には深い関係があると言われています。自分を病的にまでよく見せたいという気持ちが病的な嘘をつく原因になります。
(12)演技性パーソナリティ障害
自分をよく見せようと演技する一環として虚言が現れます。自己愛性パーソナリティ障害との類似点が多くあります。
(13)境界性パーソナリティー障害
表向きは非常にいい人のように見えるが相手によりいう内容を変えて裏で人を操ります。たとえば、AさんにはBさんのグループからのけ者にされて困っていると相談している裏で、Bさんのグループには、Aさんからひどいパワハラを受けていると相談しているというようなケースです。
(14)虚偽障害
ミュンヒハウゼン症候群。周囲の関心や同情を引くために病気を装ったりすること。
(15)未熟
病的な嘘つきの背景にパーソナリティ障害がある場合は、性格の未熟さ(嘘の内容も未熟)といった特徴が現れます。
(16)自我肥大
自己愛性パーソナリティ障害との関連があります。うぬぼれ、自分が現実の能力以上に優れていると思い込むこと。
(17)増幅促進
周囲に嘘をとがめる人、止める人がおらず、嘘つきが加速していく環境のこと。こういった環境の中で病的な虚言者はモンスターのように成長していくとされています。
(18)対人操作性
境界性パーソナリティー障害との関連があります。嘘によって周囲を振り回します。あるコミュニティの中でたったひとりの病的な虚言者のせいで、そのコミュニティ全体の人間関係がめちゃくちゃになることもあります。
(19)我こそは被害者なり
嘘がバレたときに、その嘘をついていたことを悪いと思うどころか、自分こそが被害者だと反応すること。
(20)独自の倫理道徳観
嘘のパワハラの申告をすることが、本人の中では正義のためであったり、経費の過大請求をするにもかかわらず、自分の中では倫理観が高いと思っているなど。上司に相談をせずに仕事を進める一方で、部下が相談しないことは組織の運営に背いていると思うなど、正当化されたマイルールが存在します。
(21)メリットの欠如(虚言のための虚言)
嘘をつくことで得られるメリットがないのにもかかわらず嘘を付く場合、嘘をつくこと自体が虚言の目的になっているということ。
(22)懲りない
嘘がバレても、嘘のせいで痛い目にあっても懲りずに嘘を続けます。
(23)甚大な被害
結婚詐欺師など金銭的・物理的な被害だけではなく、精神的にも甚大なダメージを負わされることもあります。
(24)部分承認
自分の嘘を認めたとしてもすべてを認めたわけではなく、その一部だけを認めます。
(25)自己正当化
自分が善人でいたいがために、自分は嘘つきだという事実を認めるのではなく、嘘をつく理由があったと正当化し自分を騙すこと。
(26)虚を実と確信する
自分の嘘を本当だと思い込むこと。記憶自体に影響があるという意味で、(8)の虚実の混乱と似ています。周りからは本当に記憶が書き換わっているのか、それとも嘘という自覚があるのかどうかを判別することはできません。
(27)攻撃性
自分の嘘を「嘘だ」と指摘する人に対して攻撃的な態度を示します。自分の嘘を真実だと信じているから怒るケースもあるようですが、中には怒りで嘘をごまかす狙いもあるようです。
(28)撤回拒否
嘘であるという証拠を見せられても頑なに嘘だと認めません。原因は(8)の虚実の混乱(嘘か本当かどうか自分でも分からない)から来ていると考えられています。
(29)衝動コントロールの障害
衝動コントロールの障害は依存症と関連があると考えられており、「やめたいと思っているのにやめられない」のは脳内のメカニズムが原因なのではないかという考えのことです。嘘をやめたいと思っていてもやめられないのは、依存症の一種かもしれません。
(30)生活必需品
嘘を生活の糧にしている状態。
(31)反社会性パーソナリティ障害
社会の規範を破り、他人を欺いたり権利を侵害したりすることに罪悪感を持たない障害です。たとえば、人や動物への攻撃、所有物の破壊、虚偽または窃盗、重大な規則違反などが挙げられます。
(32)良心の欠如
(31)の反社会性パーソナリティ障害と関連があるが、虚言以外にも良心の欠如した行動がみられるのが一般的。
(33)行動障害
18歳未満の人につけられる診断名。大人になると反社会性パーソナリティ障害という名前になり、反社会性パーソナリティ障害は15歳以前に行動障害であったことが診断の基準になっています。
嘘にはどう対処すればいいの?
また、掲載されているエピソードの中には、「小さいころから嘘つきだったが、ここ数年ひどくなってきている。病気なのではないか」という嘘のレベルが年数の経過と共にひどくなっているケースが何件も見られます。
そして、筆者の林先生もおっしゃっているように、
叱られることがなければ、嘘は続くであろう。悪いことを悪いと言ってくれる人がいなければ、悪いことは増幅し続ける。子どもでも大人でも同じだ。
実害がないからと嘘をつき続けてしまう人を放置すれば、嘘はどんどんと続き、さらには続くだけではなく「増幅し続ける」とハッキリと書かれています。
嘘を見過ごさない態度が嘘の抑制に効果があるといえます。
病的な嘘を改善する方法(自分の嘘をやめたい場合)
この本では、実際に嘘をつき続けてしまう人が嘘をやめるために取った対応策が載っています。
これは自覚のある人が自らの嘘を押さえるために取っている方法です。
- 嘘ではない文章を書いて、それを言う練習をする
- 嘘をついてしまったら、それを撤回する文章を考え、練習をしてから相手に伝える
これは、いまある問題を整理し、問題を解決する方法や人間関係を改善する方法を練習する認知行動療法の進め方によく似ています。
認知行動療法は自分の気持ちや行動をコントロールする方法ですが、嘘をコントロールするのにも応用できると考えられます。
まとめ
本文中で紹介した本の中には、44つの嘘つきのエピソードが出てきます。中には世間を騒がせた野々村議員や佐村河内守氏のエピソードも載っています。そして興味深いのが、実際に嘘をやめられない人の相談も掲載されているということです。
この本の中に出てくるケースに限って言えば、念密にストーリーをねって嘘をつく人の方が、その場しのぎで嘘をつく人と比べ、嘘つきであることを自覚しているうえに、指摘されれば嘘を認める傾向にあるということです。つまり、病的な嘘つきの中でも嘘が頻繁で突拍子もない(人を騙すことができないような)嘘をつく人は、衝動的にその場その場で嘘をついている可能性が高いのだと考えられます。それは、まぶしくなれば瞳孔が小さくなるように、一種の反射のようなものなのかもしれません。
本書では、病的な嘘つきが本当に「病気であるかどうか」については、分からないとしています。
本の中に出てくる実際に嘘をつき続けてしまう人の目線から嘘を見たときに、私たちが考えているような嘘つきのイメージは少し変わってくるように思います。
なぜ嘘をついてしまうのか。
嘘は嘘の特性ゆえに検証しにくい問題ですが、初めは些細な嘘から始まったものが増幅され、病的な嘘になっていくこともあります。周囲の人は、嘘を見逃さずに、「ダメなものはダメ」だという姿勢が嘘をやめさせるために必要不可欠です。
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