私は、結婚生活の5年間モラハラを受け続けていましたが、自ら夫と決別し、モラハラ環境から抜け出そうとはしていませんでした。
それは私自身が被害者である意識がなかったことが原因だと思っていましたが、心理学的にもちゃんと理由があったことが分かったのです。
学習性無力感とは?
学習性無力感は、努力を重ねても何も状況が変わらないことを経験することで、「何をしても無駄」だと学習し、無気力な状態になることです。「学習性絶望感」や「学習性無気力」とも呼ばれています。
原因は、周囲からの自己否定の言葉、大きなストレスを感じる体験、経験したことのない大きな挫折感などから引き起こされます。
普通の人であれば、不快だと思う環境を改善するための努力をしますが、学習性無力感に陥った人はそういった努力を全くしなくなり、不快な状況を変える(もしくは逃げる)ための自発的行動を行わなくなります。
現在では、抑うつ状態やうつ病になるメカニズムの一つであると考えられています。
アメリカの心理学者セリグマンとマイヤー達が行った実験
2匹の犬をそれぞれの部屋に入れました。
Aの部屋は、電流が流れたときに、ボタンを押すと電気ショックが回避できる部屋。
Bの部屋は、電流が流れたときに、何をしても電気ショックを回避できない部屋。
Aの部屋に入った犬は、ボタンを押せば電気ショックを回避できることを学習し、電気が流れるとすぐにボタンを押すようになります。一方、Bの部屋に入った犬は、何をしても電気ショックが回避できないことを学習し、次第に何の行動も起こさなくなりました。
そして、Bの部屋に入った犬をAの部屋に移したところ、Aの部屋ではボタンを押せば電気ショックが回避できるのにもかかわらず、やはり何の行動も起こしませんでした。
セリグマン達は、この理論を人間にも当てはめ、抵抗したり回避したりすることができない高ストレス状態に長期間されされると、そうした不快な状況を変えるための自発的な行動を起こさなくなることを発見したのです。
学習性無力感に陥るメカニズム
モラハラの場合、長期間に渡って自己否定をされ続けたことが原因で学習性無力感が引き起こされます。
モラハラ加害者は被害者のやることをすべて否定して「お前は何をしてもだめだな」「お前はおかしい」と言い続けます。さらに、その内容はモラハラ加害者の気分でころころ変わるため、被害者はモラハラ加害者の言うとおりにやっても、必ず否定され続けます。被害者は、潜在意識で「何をしても無駄である」「自分が認められることはない存在だ」などと考えるようになり、学習性無力感に陥いるのです。
モラハラ加害者の言葉の影響力が強くなってしまう背景には、「閉鎖された空間でモラハラ行為が行われる」ことや、「相談しても周囲から理解が得られにくい」ことが挙げられます。
モラハラ被害者はいつの間にか孤立化し、周囲に助けを求めることができないままモラハラ加害者の言う自己否定の言葉がすべてだと思い込むようになってしまうのです。
学習性無力感から回復するためには?
1.成功体験を積み重ねる
何をしても否定される体験を、成功体験で上書きする必要があります。まずは、叶えやすい小さい目標をたてましょう。「できる」という成功体験を重ねていくうちに、自己肯定感を養うことができます。自信を取り戻すことが何よりも大事です。
特に子どもがモラハラ被害に遭っていた場合は、心の傷によって学業不振に陥ったり、アダルトチルドレンや引きこもりになる可能性がありますので、適切なケアが必要になります。
私の子どもの場合、別居前はちょうどトイレトレーニングの最中でした。トイレを失敗すると夫からものすごく罵声が飛んできて、何十分も怒鳴り続けていました。そのため、別居した後も、子どもは夜中にトイレに行くと大声で泣き叫んでいたのです。トイレに失敗をしても「大丈夫」と声をかけてあげたり、成功したときには褒めることを続けていうるうちに、泣き叫ぶ回数が減っていき、今では全く無くなりました。
2.否定したり、激励しない
学習性無力感に陥っている場合、普段よりも否定されることに過敏です。「こんなこともできないのか」と言われてしまうと、「何もできない人間だ」と受け取り、せっかく育ってきた肯定感が消失してしまいます。
また、過度な激励もストレスになる可能性があります。「やればできる!」と言って励ますのではなく、本人のペースに任せ、できるだけそっと見守ることが大切です。
別居後の子どもは、少しのことでも叱るとパニックになり、大声で泣きだすようになっていました。「危ないからしてはダメ」という言葉も全く受け取ってもらえませんでした。しかし、叱らないといけない場面もあるため、その時には「大好きだよ」「あなたが大切」という言葉も伝えるようにしていました。
また、できないことも増えているため、他の子よりも発育に遅れがみられても比べないようにしていました。しばらくすると、自然と他の子に追いつくことができました。
3.環境が違うことを伝える
モラハラ環境が終わったことで、今と以前の状況は違うことを伝えましょう。
たとえば、モラハラ加害者が決めつけていた「失敗」は、別の環境では失敗ではないと覚えてもらうことは有効です。
子どもが混乱するようであれば、以前の環境と比べずに、「今はこうだよ」と伝えてあげましょう。
まとめ
「学習性無力感」を知ったことで、私自身も、モラハラ環境に居続けたため、その不快環境から抜け出す自発的行動を取ることができなくなっていたということに気づけました。
これによって、子どもに悪い環境を与えていたことを申し訳なく思います。
モラハラ環境から抜け出すためには、「学習性無力感」に陥る前に行動をしなくてはなりません。
一刻も早い脱出が必要です。
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