【自己心理学】自覚のないモラハラ加害者を治療する3つの過程!

【自己心理学】自覚のないモラハラ加害者を治療する3つの過程!

ハインツ・コフートは、1913年5月3日にウィーンで生まれた精神科医です。

彼は、自己心理学を提唱し、「ミスター精神分析」と呼ばれるほど有能な精神分析者でもあります。自己愛性パーソナリティ障害の患者を分析し、自己愛性パーソナリティ障害の患者には、他の人には見られない特殊な転移があることを発見しました。

ここでは、モラハラ加害者を治す人を治療者とします。

コフートは、自己愛性パーソナリティ障害の人を治療するためには、自己愛性パーソナリティ障害の患者特有の「自己愛転移」が起きたときに、治療者が適切な対応をすることで改善されていくとしています。

今回はモラハラ加害者の心理を読み解きながら、モラハラを治療する方法について考えます。

目次

自己愛性パーソナリティ障害の人が抱える問題

コフートによれば、自己愛にまつわる問題は、自己評価や自己の誇大性の問題ではなく、自己にまつわって他の人間をどう体験するかという関係性のあり方にあると考えていました。

葛藤ナマモノ

自己肯定感の低さや、誇大な自己像は自己愛性パーソナリティ障害の本質的な問題ではないんですね

あなたも私も同じ思いをしているという「安心感」、すなわち共感的応答性によって自己愛の発達に貢献する他者のことを「自己対象」と呼びます。(主には母親)

人の心にとって自己対象は必要不可欠な存在であり、人との関係性を依存から自立へと変化する過程は、自己対象を捨てるというものではなく、自己と自己対象の関係の質の変化のなかに存在しなければならないとコフートは主張しました。つまり、自己対象を捨てた(ゼロにする)のではなく、自己対象から分離・独立していくという変化が自立を生み出します。

そしてもう一つ、自己対象から分離・独立する過程を経て、他者と自己が別の存在であるということを認識するようになるのです。この段階のクリアしていないと自他境界を獲得することができず、人と適切な距離感を取れないにようになってしまいます

自己愛性パーソナリティ障害の人の持つ、「一人ではいられない」「自他境界が無い」「他者の気持ちに共感できない」といった特徴はこの段階の発達をクリアできていないことを表しています。

理想化対象を持てなかった

自己愛の原型として、自己対象の賞賛や承認によって生じる「誇大自己」、自己対象が提供してくれる「理想化された親イメージ」があります。

親が子どもを拒絶したり虐待したりすると、子どもは自己対象である親の理想化に失敗することになります。

理想化対象を失うことがあれば、原始的な自己と自己対象の関係から発達せず、生涯を通じて愛情飢餓感を持ち、一定の対象に依存するようになってしまうそうです。発達をしていかないということは、分離・独立していくステップが開始されないということです。

自己愛性パーソナリティ障害の患者は、自己と自己対象が分離、独立した経験を持たず、たえず理想化対象との合一の思考・関心や承認を求め続けるとされています。これは、人との関係性が「依存」のままになっていることを表しています。

治療においては、治療者が自己と自己対象の関係の質の変化を促していきます。そうすることで、本来なら親との関係で発達していくはずであった分離・独立のステップを踏み、自立へと発達させていきます。

モラハラを治療する3つの過程

1.欠けている自己を分析する

コフートは、自己愛性パーソナリティ障害の患者は周囲の人々からの共感的応答を必要とする段階で発達停止している、すなわち葛藤ではなく欠損が原点にある、と考えています。

葛藤ナマモノ

欲しいものを得られないという「葛藤」ではなく、そもそも共感的応答というものを「知らない」ということでしょうか。


これは両親の共感の失敗の結果です。

自己愛性パーソナリティ障害の患者から治療者に対する鏡転移、双子転移、理想化転移を分析することで「欠損」を診断できるそうです。

コフートは、

「患者が欠陥をもった自己を守るのは、自己の発達がかつて妨げられたその時点から将来再び成長し発達をつづける準備をするためである」

と考えています。なかなかコフートは前向きですね。つまり彼らの発達段階が止まったままであることは、いつかまた発達するための準備であるということです。

将来においても発達が妨げられた時点から成長や発達を続けることができるとコフートは考えたのです。

転移分析により、患者の無意識の欲動や葛藤を(本人に)意識化できるとされています。

葛藤ナマモノ

自己愛性パーソナリティ障害の患者が持つ幼児的な誇大性、顕示性を本人が意識し、その後、治療者の共感的理解のサポートを受けることで、現実的なものに統合されていきます。

2.共感と自己対象からの分離

理想化された治療者のイメージと同化した意識を持つことで、自己愛均衡が保たれ、力的・知的・美的・道徳的完全感を患者が体験することになります。

葛藤ナマモノ

いままでは自己愛が成長していなかったため、自分の中からポジティブな感情を得ることが難しかったのだといえます。

今まで持つことができなかった「誇大自己」、「理想化された親イメージ」を患者に補うことができます。

治療者の共感は転移分析により分かった自己愛損傷(欠損部分)に向ける必要があります。そこに必要な共感的応答を供給することで、自己愛の発達を促します

この治療過程が進んでいけば、ときどき治療者が共感的理解に失敗しても、患者は次第にストレス耐性を獲得していき、理想化を直ちに取りさげる必要がないことを学んでいきます。

葛藤ナマモノ

それまでは理想化した相手が自分の理想を叶えてくれないと分かると「脱価値化」していましたが、恒常的なイメージを保つことができるようになります。

自己対象の理想化備給を保持する力が身につくにつれ、自己対象から分離していき、理想化対象も完全な人間ではなく、自分を失望させることがあることを理解することができるようになります。

そして、理想化対象(この場合は治療者)が果たしてくれていた役割・機能を段階的に自分が内在化(獲得)していきます。(変容性内在化)

3.自己の回復

自己の欠陥の治癒は変容性内在化の過程を通して新たな精神構造を獲得するにつれて徐々に回復していきます。

①子ども時代に形成された自己の精神構造における欠陥(親との関係において被った障害)

②欠陥に対してつくられる二次性の構造(防衛、もしくは代償構造)により自己を修復

防衛構造の場合
防衛構造を分析した結果、自己の欠陥が分かり、変容性内在化によって欠陥を満たすことができる

代償構造の場合
認知的感情制御を獲得し、代償構造を信頼できるようになる

葛藤ナマモノ

親との関係で被った障害を「防衛構造」は覆い、「代償構造」は代わりとなるもので補います。

自己愛性パーソナリティ障害の治療とは

本来は赤ちゃんであるときに親との関係の中で育まれ発達していくはずだった自己と自己対象の関係を、患者と治療者の間で自己愛転移を通じて行うことによって発達を促したり、信頼できる代償構造を獲得することが必要になります。

また、コフートの治療方法については障害が重度の場合は「良い自己対象機能」を見つけることができずに治療が困難であることが指摘されています。

彼らに共感できるのは誰か?

ここからは私の勝手な推論ですが、モラハラ被害者が「共感」を求める相手が、同じような「モラハラ被害者である」のと同様に、モラハラ加害者たちもまた、同じような境遇によりモラハラ加害者になってしまった人たちの方が「共感」の効果があるのではないかと考えます。

というのも、ハインツコフート自身が、幼いころは母親と二人暮らしであり、母親の性格に偏りがあったために自己愛を育めず孤独感・疎外感があったそうです。

コフート自身が「理想化された親イメージ」を持てなかったからこそ、同じような体験を味わい自己愛を育めなかった方の心に深く共感ができたのではないかと思うからです。

同じ気持ちを共感しあえるのは、単に表面的に共感するしぐさを見せることではなく、同じような体験から真に分かり合えることが必要だと思います。

治療者が患者に対して、双子転移が起きるというのも、彼らのバックボーンが似通っているからではないかと私は思います。

私自身も、モラハラ被害を体験している人に向けてブログを発信していますが、かつてはモラハラ被害者体験ブログや本を読み漁り、体験談に強く共感したことで少しずつ心の傷を癒し、被害から回復することができました。

生まれ持った境遇が正反対の人の場合、いくら相手に共感してみせたところで、相手の心が動くかどうかについては難しいと感じています。

モラハラを治療するときに注意するべき点

自己愛性パーソナリティ障害の人の近くには、モラハラ加害者を産む環境があったと考えられ、その環境や人のそばにいることで、いつまでたってもモラハラの影響を受け続ける可能性があるということに注意しなければなりません。

彼らの自己を回復させようとしても、いつまでたってもモラハラが正しいとする環境に引っ張られるようであれば、改善は見込めません。

また、「同じような境遇でモラハラ加害者になったが治療を希望し努力している人」もしくは「治療できた人」から話を聞くことで、劇的な改善につながる可能性もあります。

まとめ

自己愛にまつわる問題は、自己評価や自己の誇大性の問題ではなく、自己にまつわって他の人間をどう体験するかという関係性のあり方にある

コフートの考え方によれば、自己愛にまつわる問題は、自分の中の問題ではなく、自分の外の人間とのかかわりの中で、しかもそれがうんと幼いころから生じるようです。

発達のステップを上がれなかった場合には、そこからもう一度やり直す必要があるということ。そしてそれは、他の人間とのかかわり(関係性)が必要であるということ。

残念ながら相手を褒めて自己評価を高めてあげたり、誇大的な自己を満たしてあげることは、自己愛の問題について効果を及ぼすものではないようです。

このように長く放っておかれた問題に時を経た後で力を尽くすこともまた難しいことだなと感じます。

参考:

https://www.lib.fukushima-u.ac.jp/repo/repository/fukuro/R000004337/19-167.pdf
https://appsv.main.teikyo-u.ac.jp/tosho/shinri14-03.pdf
https://archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/KK/0013/KK00130L041.pdf

ちなみに

コフートが提唱した自己心理学はアメリカでは強く支持されていますが、ヨーロッパではそうではないようです。これは、各国の家族観が強く影響していると言われています。私たちの人格・性格・思想・思考が何によって決定づけられているのかはまだ分からないことがあり、必ずしも自己心理学が答えのすべてではありません。(私もコフートの考え方に必ずしも賛同できない部分もあります。)

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