「新型うつ」という言葉をご存知ですか?この言葉が世に出てきてから少し経っているので、多くの方が耳にしたことがあるのではないでしょうか。この「新型うつ」は、自己愛性パーソナリティ障害をふくむパーソナリティ障害と深くかかわりがあるとも言われています。
また、うつにも種類があり、よく知られている気分が落ち込んだままの「定型うつ」とそれに当てはまらない「非定型うつ」が存在します。
「定型うつ」と「非定型うつ」の違い、また自己愛性パーソナリティ障害(モラハラ)と「非定型うつ」「新型うつ」との関係をまとめました。
定型うつ、非定型うつとは?
まず最初に、うつの中でも二分される「定型うつ」と「非定型うつ」について見てみましょう。この二つは同じ「うつ」と言われているものの、症状が異なります。
大うつ病と言われるものを「定型うつ」、それに当てはまらないものを「非定型うつ」と呼びます。
両者の違いを見てみましょう。
<定型うつ> | <非定型うつ> |
不眠 | 過眠 |
食欲低下 | 過食 |
感情の動きが低下(気分が落ちたまま) | 拒絶過敏性 |
生活エネルギーの低下 | 好きなことは楽しめるなどの気分反応性 |
倦怠感 | 鉛様麻痺 |
症状は朝がひどく夕方にかけて和らいでいく | 夕方から夜にかけて症状がひどくなる |
このように、定型うつと非定型うつはどちらも「うつ」と名付けられながら、症状が大きく異なっています。
定型うつでは、眠れなくなる不眠に対し、非定型うつでは眠りすぎてしまう過眠など真逆ともいえる症状も見られます。
非定型うつの特徴
過眠・過食
身体的症状には、「過眠」「過食」がよく見られます。特に、「気分が落ち込んだ時」や「いやなことがあった時」により症状として現れやすくなります。
また糖分は、抑うつ状態を一時的に和らげてくれるため、甘いものを異常に取りすぎてしまう傾向もあります。
「過眠」では、1日10時間以上ベッドで横になっている時間がある日が週に3日以上ある場合を指します。「非定型うつ」の場合、気分の落ち込みに合わせて眠気が強まっていきます。たくさん寝ているように見える一方で、夜中は頻繁に目が覚めて熟睡ができないため、時間だけみればたくさん寝ているのにまだ寝足りない状態になってしまうのです。このように睡眠と覚醒のバランスが崩れ生活習慣が乱れていきます。
朝起きれずに会社に行けないなど、日常生活に支障をきたすこともあります。昼夜逆転生活はホルモンバランスを崩すことにもなり、うつ状態が悪化します。
拒絶過敏性
他人の些細な言動を被害妄想的に捉え、人間関係に支障をきたすようになります。
言った本人が全くそんな意図がなかったしても「傷つけられた」「批判された」と捉えてしまい、上司からの注意や指摘に逆切れをしたり、会社を休んだりします。
この「拒絶過敏性」の症状は、「自己愛性パーソナリティ障害」の症状とよく似ています。そのためうつ病であるのか、パーソナリティ障害なのかの診断が難しく、医者であっても誤った診断を下してしまうこともあるそうです。中には双方が合併しているケースもあります。
気分反応性
「定型うつ」では、気分の落ち込んだ状態が続くのに対し、「非定型うつ」では、楽しいことや自分のやりたいことをやっているときには、うつ症状が見られないという特徴があります。休日になると元気になり旅行や映画などに出かける反面、平日になると仕事や学校に行けなくなるため、周りからは仕事や学校に行くのが嫌で「怠けている」とか「仮病を使っている」と思われてしまいます。しかし、本人には心の持ちようだけではどうしようもならず、周りから責められることでさらに苦しんでいます。
鉛様麻痺
手足に鉛の重りをつけたかのように重く感じ、動くのがおっくうになります。「定型うつ」でも、倦怠感が現れますが、「非定型うつ」ではそれがよりひどくなります。
体が重く感じるからと言って動かさないでいると症状がどんどんと悪化していきます。治すためには意識的に体を動かし、運動などをすることが必要です。
夕方から夜にかけて症状がひどくなる
症状がひどくなるのは、夕方から夜にかけての時間です。その間に突然、不安感や抑うつ状態に駆られ、人が変わったかのような発作状態になります。
うつ病は長く続くほど「脳が固定」されて治りにくくなってしまう!
非定型うつを抱える患者の多くは、若いころ(思春期前後)から症状が出ており、しかも慢性的であるといわれています。良い状態のときと悪い状態のときを繰り返しながら、小康状態を保っているケースも少なくありません。
きちんとした治療が行われないと、脳の前頭葉(理性的な分野)の機能がどんどん落ちてしまいます。こうして長い間治療されずに放っておかれた病は、5~10年たって脳が悪い状態で固定されてしまい、治りにくくなってしまうのです。状態が長ければ長いほど病気は治りにくくなり、最終的には治すことが難しくなってしまいます。
「新型うつ」は「非定型うつ」ではないどころか、うつですらない!?
メディアでよく言われている「新型うつ」は、パーソナリティ障害であり、うつ病とは区別されるものであると考えている研究者もいます。(つまり、うつ病ではない。)
「新型うつ」は医学的用語ではなく、またその定義もバラバラで時に、「非定型うつ」の意味合いで使われたり、全く新しいタイプのうつとして使われることもあります。日本うつ病学会による診療ガイドラインにおいても、「新型うつ」は取り上げないとしているそうです。
新しいタイプのうつ=新型うつの特徴は、
- 失敗や不幸の原因を他人や社会、環境のせいにする
- 責任感が薄い
- 薬が効かない
- 症状が長く続く
です。「非定型うつ」かと思っていたら、実は「新型うつ(=うつではない)」であったということも考えられます。薬が効かない、症状が一向に良くならない場合は、「うつ病」以外の可能性も考えた方が良さそうです。
うつなのか、パーソナリティ障害なのかの診断は医学的にも難しい!?
非定型うつの患者は同時に、パーソナリティ障害を併発していることが多いとも言われています。
しかし研究者によっては、パソナリティー障害と非定型うつは別物だと考えている人もいて、その境界はあいまいです。その場合でも、パーソナリティ障害と非定型うつの症状はよく似ており、適切な診断を下すのはとても難しいと言われています。
いずれにせよ、医学の世界でも両者の線引きは難しいと言えるでしょう。
パーソナリティ障害(モラハラ)なのか、「非定型うつ」なのかの判断方法
非定型うつの場合、人が変わったくらいの性格の変化が起こるとも言われています。そのため、うつ状態のときは、モラハラのような行為をすることも考えられます。
しかし、モラハラと非定型うつでは以下のような違いがあります。
1.人を攻撃したり、怒鳴った後にひどく落ち込んだり自責的になる場合は「非定型うつ」
「非定型うつ」の場合は、気分の落ち込みが続く「定型うつ」と違い、感情の起伏が激しくなります。人に褒められたりいいことがあると喜んだり元気になる一方で、上司に怒られるなど些細なことで全否定されたと感じ、攻撃的になります。「非定型うつ」の場合は、この怒りは発作的なもので、怒り発作が終われば「なんて悪いことをしてしまったんだ」と激しい自己嫌悪に陥ります。
一方、自己愛性パーソナリティ障害(モラハラ)の場合は、周りが悪く自分が正しかったというスタンスを貫きます。
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2.突然切れたり、攻撃的になる発作(モラハラ)が起こる場所が決まっていない場合は「非定型うつ」
モラハラの場合は、モラハラをやる場所が決まっています。他の人の目に映る場所ではモラハラを行いません。
その理由はこちらの記事に書いてあります。(モラハラ加害者がコントロールできるのに「怒鳴る」をやめない理由)
しかし、「非定型うつ」の場合は、発作的行動は、本人の意図しないところで突然起こります。
そのため、家では攻撃的になり怒鳴るなどの行為が行われるのに、その他の場所では行われないなど限定的に発作(モラハラ)が出る場合はモラハラである可能性が高いです。
コントロールできているのがモラハラ、本人もコントロールできずに苦しんでいるのが「非定型うつ」です。
3.患者の家族も同じような怒鳴る行動、人を攻撃する態度を取る場合は「モラハラ」
モラハラの場合は、多くの場合幼少期の生育環境が関係しています。そのため、親がモラハラ親である可能性はものすごく高いのです。
モラハラはモラハラ環境で育ったため、特有の価値観や脳の働きを形成し、それが元でモラハラを行います。
患者の親も同じような攻撃性態度をはらんでいる場合は、うつによる発作ではなく、本人の性格が関係していると考えられます。
私の体験談
私は、夫はクリニックでうつ病と診断されたので、この「非定型うつ」であろうと考えていました。
夫の「怒鳴る」「人を攻撃する」「好きなことは楽しめる」「被害者意識の強さ」などがこの新型の症状に当てはまっていたからです。
しかし、夫の攻撃的態度は義両親の態度そのものでした。もちろん義両親はうつ病ではありませんでした。
夫にいつからこの症状が出ているか聞いたとき、時には「結婚前から」と言い、時には「お前のせいだ」と言っていました。それは、長いこと生きづらさを感じていたことがつい本音となって、「昔から」という言葉に現れたのではないかと思っています。
まとめ
うつ病が原因でモラハラ(のように見える行為)をしているのと、モラハラ加害者がうつ病になった場合では、同じ症状が出ていても性質は全く異なります。
前者では、うつ病が寛解すればモラハラ行為もおさまりますが、後者の場合はうつ病とモラハラは無関係です。うつ病が良くなってもモラハラがなくなることはありません。
また、「新型うつ」がうつ病であるかどうかについては、識者の中でも見解が分かれています。
あなたを悩ませているモラハラの真の原因が何であるかを見極めることが必要です。
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