モラハラを受けて、心の傷を負ってしまった人へ。
はやく忘れて自由になりたいと思っているのにいつまでもモラハラ被害にとらわれてしまっている人へ。
トラウマを克服するために必要なことをまとめました。
なぜトラウマは作られるのか?
幼児期の記憶には、「危険回避」という働きがあります。
たとえば、階段の上でぴょんぴょんと飛び跳ねていて転んでしまい、階段から落ちてしまったとしましょう。その時に、階段の上で遊ぶと落ちて痛い目に遭うと脳が記憶します。このように、ある行動をして何らかの不利益を被った場合、それを記憶することで、次に同じ痛みを味わないように「危険回避」をするように人間はできているのです。この場合だと、階段の上で遊んでいたら落ちて怪我をしてしまったことを記憶することで、階段で飛び跳ねると痛い目に遭うから飛び跳ねてはいけないと学び、次に階段から落ちることを回避できるということです。
トラウマが起こってしまうメカニズムは、このように過去に起こった辛いできごとを覚えておくことで、次に同じ被害に遭わないように回避するためです。
つまりトラウマとは、本来は自分を守るための作用なのです。
しかし、あまりに辛すぎる体験を記憶し続けることは、恐怖で身動きが取れなくなったり、辛い記憶が心を蝕んで病んでしまうこともあります。本来は「いい未来」をつくるハズの機能が、本人を苦しめ、トラウマに縛り続けられることになってしまうのです。
モラハラを受けたときのトラウマ症状とは?
ひどいモラハラ被害を受けた場合には、たとえモラハラ環境から離れることができたとしても、長い間トラウマに悩まされることがあります。人を信じられなくなるなど対人面で障害が出たり、パニック障害や不安障害などの症状が出てしまい、生活にも支障が生じることもあります。
人間不信になる
モラハラ加害者は、結婚前や子どもが生まれる前などモラハラをしだす前はとてもいい人でした。
しかしその「いい人」が持つ強い二面性と恐ろしい裏の顔を知ってしまった被害者は、その他の人々についても同じように「もしかしたらこの人にも裏の顔があるのかも」と信用できなくなります。今まで親しかった、仲の良かった人を信用できなくなって、関係を断ち切ろうとすることもあります。新しい人間関係をつくることにも消極的になり、対人面で大きな支障をきたします。
人の目を見て話すことができない、コミュニケーションがうまく取れなくないといったことから交友関係や仕事関係にも支障が出てトラブルに繋がることもあります。
男性不信、女性不信になる
モラハラ加害者が男性であった場合には、男性不信に、女性であった場合には女性不信になります。異性の怖い面を見てしまったことで「男性は女性を傷つけるもの」「女性は男性を傷つけるもの」と言うトラウマから異性を信じることができなくなります。
重度になってくると男性の居る場所に出かけることも難しくなります。
人間関係がうまくいかなくなる
人間不信や男性不信、女性不信になってしまった結果、相手の言動を悪くとりすぎて些細な言葉にも大きく傷ついたり、不信感から人間関係を断ち切ろうとしてしまいます。
大きな音が怖い
突如としてキレる、物を投げる、大きな音を出すと言ったモラハラを受けてきた被害者は、「大きな音」を聞いただけでモラハラ体験がフラッシュバックします。その場にもうモラハラ加害者がいないにもかかわらず、大きな音が引き金となり、動悸や息切れ、過呼吸と言った症状が出ます。
着信音、メールの受信音などが怖い
支配、束縛の手段として、「電話はワンコールで出ないといけない」「外出中は5分おきに様子を知らせなければいけない」といったルールが課せられていたケース。仕事中やプライベートの時間に過度な連絡を受けていたケースもあります。その内容も、脅迫めいたものであったり、本当は出たくないのにもかかわらず恐怖から出ないといけなかったりした場合には、その時の心理状態がフラッシュバックによって蘇ることがあります。
電話の音がなると緊張する、大きな不安を感じる、ひどい場合には電話やスマートフォンを持つことができなくなることもあります。
相手から見張られているのではないか、つけられているのではないかと不安になる
相手と離れ、住所を秘匿にして自分の居場所を知らせないようにしたからと言って被害者は安心だと感じられるわけではありません。もしまた相手が突如として目のまえにあらわれるんじゃないだろうか、自分の生活を脅かすんじゃないかと言う不安はすぐには無くなりません。
子どもにモラハラが出ないか不安になる
同居時には「いい子」であった我が子が、加害者と離れた後に様々な問題が浮上してくることがあります。攻撃的になったり、心の病気を発症したり、不登校になったりといったトラブルの原因は、別居後の環境ではなく、同居時のモラハラ環境からの反動である場合があります。
特にモラハラ環境がひどければひどいほど反動も大きくなると考えられますが、子どもの言動にモラハラ親と同じものとみると、子どももモラハラ親に似てしまったのではないかと言う不安はつきまといます。
トラウマ克服にやるべきこと
1.忘れたい、記憶から消したい、なかったことにしたいと思うとトラウマは克服できない
歴史を変えることができないように、過去に起こった出来事を無しにすることはできません。また、トラウマを克服するということは、トラウマ原因が起こる以前の状態に戻ることではありませんし、タイムスリップして戻ることはできないのです。
トラウマを思い出さないようにしようと、トラウマ原因そのものを「なかったことにする」というのは、見ないように無意識化に押し込んでいるだけです。
このように「いやだ」「つらい」「怖い」といった感情や記憶に蓋をしてしまうことを「否認」「抑圧」と言います。「否認」「抑圧」された感情や記憶は、蓋をして処理されずにそのままになってしまっています。
洗濯物でも洗濯機の中に入れて蓋をしてしまえば、見えなくはなりますが洗濯をしなくてよくなるわけではありません。結局は洗濯をしなくてはいけないときがやってきます。
傷ついた気持ちや記憶に蓋をすることは、処理を後回しにしているだけでトラウマがかえって長く続く原因になってしまうのです。
さらに蓋をされて「否認」「抑圧」された「傷ついた気持ち」は癒されることを求めて蓋を押し上げ反発し、つらい体験を繰り返し思い出してしまうようになるのです。
2.まずは自分の傷ついた気持ちと向き合う
トラウマ体験を見てみぬフリをすることは、あなたの傷に適切な治療を施すことなく無視し続けているということです。
あなたの中の「傷ついた気持ち」は癒しを求めています。
まずは自分の傷を見てあげることです。そしてその傷の状態を確認してどういった治療が必要なのかを考えてあげてください。
心に負った傷を自分自身で受け止めて、感情を処理・発散することが必要です。
3.「傷ついた気持ちや記憶」を癒すためにはつらい記憶を紙に書きだす
私自身、モラハラで傷ついた気持ちや記憶をこのように文字にしています。紙でなくてもパソコンで打っても良いですし、方法は問いません。
紙に書く作業というのは、あなたの中にあるトラウマを外に分散させる作業です。辛いエピソードを吐き出して外に出した分、自分が抱えている辛い気持ちがどんどんと軽くなっていきます。
また自分に起こったことを客観視することもできますし、客観視できることで分析することもできます。
神経生理学者であり心理学者である「ピーター・ラヴィーン」は、トラウマ克服の方法として、傷ついた気持ちや記憶に対しどんなことでも探索することが有効であると言っています。書き出してみるとトラウマ体験の何に「不満」を感じていたのか、何に「怒り」を感じていたのか、「恐怖」「後悔」「悲しみ」それぞれについて理解することができます。
この作業は思い出す時がつらく、できごとによっては書くことができないままであるエピソードもあります。そういったエピソードは無理に書きだすことなく、まずは書けるものから書いていけばいいです。
私自身も未だにかけていないエピソードもあります。今後、回復していけば徐々に書き出すことができるようになると信じています。
4.人の体験を聞いたり知識を身につけることは安心につながる
私は相手から虐待をでっちあげられたことや「母親失格」だと言われたことがショックで、その後の子育てについて自信がなくなったり、時には死にたいような気持ちになったこともありました。
友人に子育てについて相談したり、友人から子育ての話を聞くことで自分の子育てが一般的なものであると分かり、次第に自信を取り戻すことができるようになりました。
また今は、インターネット上であらゆる知識や体験談を手に入れることができます。育児法ついて調べたり、他の人の体験を読むことは安心にもつながりました。
他にも同じようにモラハラ被害に遭った人の体験談を読んだり、モラハラ加害者について心理学から学ぶことなども有効です。
暗闇でガサガサと音がしたときに強い恐怖を感じるでしょう。実は音の正体はビニール袋がガサガサいっていただけだったと分かれば怖い気持ちは無くなります。人は、訳の分からないものには恐怖を感じやすく、恐怖がトラウマを長引かせる原因になります。しかし正体がわかれば恐怖はなくなります。
恐怖の正体を知ること、知識をつけることは、トラウマ克服につながります。
5.トラウマ体験から学んだことを考える
トラウマが作られるメカニズムは「危険回避」であると説明しました。本来は自分を守るための作用です。トラウマは、あなたを未来の危険から守ろうとしてくれているのです。
しかし未来の危険の対象が大きくなりすぎてしまうと、なんでもかんでも「危険」だと捉え、あらゆることに恐怖を感じながら生きなくてはなりません。それは生きづくてしんどいことです。
モラハラの場合、いい人が突然モラハラをしてくる体験から人が信用できなくなり、人間不信に陥ることがあります。
人と関わらなければモラハラ被害に遭うことは無くなりますが、人と全く関わらない人生がいい人生だとは言えません。
モラハラ被害を恐れるばっかりに危険対象を広げてしまうと、全く人と関わらず孤立して生きていくことになってしまいます。すべての人がモラハラをするわけではありません。警戒をしすぎることは自分の人生を不幸にしてしまうことにつながります。
この場合、「警戒する対象を明確にする」ことでなんでもかんでも警戒せずに済むようになります。
たとえば、モラハラ被害者が恐れているのはモラハラ加害者ですが、それは大勢のモラハラ加害者ではなくて自分を攻撃してきたモラハラ加害者です。そのひとり(もしくは数人)のモラハラ加害者と会わないようにすることが身を守ることに繋がります。
海外でもDV被害者へのアドバイスとして生活パターンを変えて、住む場所を変える、いつも乗る電車の時間をずらす、行く店を変えるといった対策が推奨されています。冒頭にも述べた通り「怖い」と思うのは、「危機回避」です。怖いという感情は未来の危険を回避するための警告であり、その通りにすることで次の被害を防ぐことができるでしょう。モラハラ加害者に会わないような行動をとり続けましょう。
また、トラウマ対象と似ているものも「警戒する対象」に入れておいたほうがいいと私は考えます。
似ている言葉遣いをする人、同じような思想の人、トラウマ対象に近しい人などは、できるだけ避けて生きていくことが生きやすさに繋がるでしょう。
トラウマ体験から学んだことは、次の被害からあなたを守ってくれるでしょう。
6.人間関係では無理をしない
人間関係においては、不信感が高まっているときには周囲との関係がうまくいかなくても、時が経ち自分の心が落ち着いてくると、また以前のように仲良くできることもあります。もし今自分が不安定で、相手を傷つける言葉を言ってしまうかもしれないと思ったら、しばらく周囲の人とは距離を置き、自分のトラウマと向き合うことに時間を使ってもいいかもしれません。
私は、ある時にうまくいかなかった相手とも問題が落ち着いた後には再び仲のいい関係に戻ることができました。
あなたが大きなトラウマを抱えているときは、「自分を大切にする時間」です。
7.トラウマ克服について学びたかったら
先ほども紹介しましたが、神経生理学者であり心理学者である「ピーター・ラヴィーン」はトラウマに関する著書を多く書いています。そしてトラウマ・ケアとしてアメリカのNASA航空宇宙局でも利用されている「ソマティック・エクスペリエンシング」の創始者でもあります。
彼の本は、トラウマ克服に役立つメソッドを教えてくれます。もしトラウマケアに関心があるようであれば、彼の本を読んでみることをオススメします。
まとめ
きちんとトラウマに向き合って癒すための行動を取れば、からなずトラウマ体験は風化していき、恐怖であることが退屈で滑稽で小さなものに変わっていきます。
トラウマ体験がいつか、嫌な出来事の1つとして自分の中で処理できるようになれば、それはトラウマが克服できた証拠です。
トラウマであなたの心は傷ついています。まずは自分の心の傷を癒してあげてください。
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