父親による虐待の結果、小学4年生にしてこの世を去ることになった痛ましい事件が連日報道されています。
そして、この事件では、次のような報道もあります。
心愛さんは父親と母親との実子で長女。2009年9月、母子で糸満市へ転入。その後、父親と母親は2011年10月に離婚したが、父親は時に恫喝しながら、心愛さんとの面会交流を求め、母親は抗うことができなかった。そのうちに第二子を妊娠。2017年2月に再婚し、同居。次女を出産した。
(引用:現代ビジネス https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59708)
この夫婦は一度離婚に至っているものの、子と父親の面会交流が元で縁を切ることができずに復縁したという経緯があります。時に恫喝しながら面会交流を求められたため、母親は抗うことができなかったようです。
面会交流の恐ろしい点 縁が切れず加害者から逃げることができない
面会交流は、必ず行わなくてはいけないものではなく、まず真っ先に子どもの意思が問われます。子どもが15歳以上であれば子どもの意思がそのまま反映されます。また11歳前後であれば、子の意見も考慮されたうえで面会の条件が決まります。
しかし、今から8年前の2011年の離婚時には、長女は2歳です。幼い長女が自ら面会交流を拒否することはできません。
となると、両親間での話し合いで面会交流の条件が決められたのだと推測できます。そして、母親は子どもと父親との面会交流を拒否することができなかったのでしょう。
今の日本では、よほどの理由が無い限り「面会交流」を行う事が一般的です。調停の場でも「面会交流」を決めることを勧められます。そして、あろうことか母親へのDVは面会交流を制限する理由にはならないのです。長女が2歳の時点で、子どもへの虐待があったのかどうかは分かりません。もし、母親へのDVしかなかったことで子どもへの影響はないと判断され、面会交流を制限することができなかったのだとしたら、そのことが今回の事件のきっかけになったことは間違いありません。
虐待親と非虐待親の関係は?
この事件では、父親は妻に対してもDVをし、また娘には虐待をしていたようです。母親は、父親が娘に対して行っていた虐待を制止していたものの、虐待を止めることが出来なかったようです。
虐待親と非虐待親の関係は、非虐待親も虐待親からDVや精神的DVと言った被害に遭っていることが多いのです。そして、非虐待親が虐待親を恐れており、虐待親に対して強く逆らえないことで、家庭内で虐待を防止する力が働かないという問題もあります。
誰に頼ればいい?誰も助けてくれない環境で「学習性無力感」に陥っていた可能性も
この事件を時系列で追ってみましょう。
2017年7月 | 心愛さんが父親から恫喝 母親もDVを受けていると相談 |
2017年9月 | 沖縄 糸満市から千葉 野田市へ転校 |
2017年11月6日 | アンケートで「父親から暴力」と回答 |
2017年11月7日 | 柏児童相談所が一時保護 |
2017年12月27日 | 一時保護解除 → 親族宅へ |
2018年1月15日 | 市の教育委員会がアンケートのコピーを父親に渡す |
2018年1月18日 | 転校 |
2018年3月 | 親族宅 → 両親の元へ |
2019年1月 | 始業式から欠席 |
2019年1月24日 | 自宅で死亡 |
虐待は、アンケートの開示が元で加速した可能性があります。
そして、助けを求めたことでかえって虐待やDVを加速させることになったため、被害者は「もう何をしても救われない、誰にも助けを求めることができない」「ただ、耐えるしかない」と思っていたかもしれません。
こうした「改善をするための努力をしても何も改善されない(むしろ悪化する)」ことから何をしても無駄だと学習し、無気力になることを「学習性無力感」といいます。
恐らく母親は、単に虐待を黙認していたわけではなく、長年何をしても逃れ慣れないDVや虐待を通じて、「何をしても被害から逃げることはできない」と学び、そのうちに虐待を制止する気力を失っていったのではないでしょうか。
特にこの無力感が強まったのは、アンケートの開示の後だった可能性もあります。長女は、担任の聞き取りに対し
「お母さんはみかたしてくれるが、父は母のゆうことをきかない」
「お母さんがいない時、せなかをける」
と答えていたことからも学校への相談時には、母親が虐待を止めようとしていたことが分かります。
しかし、今回の母親の逮捕では、
「娘が暴力を振るわれていれば、自分が被害に遭うことはないと思った。仕方がなかった」
と答えているのです。
助けを求めても何も変わらない現実から気力を失い、助けてくれる母親から、無気力で虐待を黙認する母親になってしまった可能性もあります。
まとめ
このケースでは面会交流は、子どものためにはなりませんでした。
面会交流をどのようにしていかなくてはいけないのか、子どもを救うためには、どこに相談をしたらよかったのか。
DV被害者は、どうすればDVや虐待をやめさせられるのかを知っているわけではありません。相談をしてもなお被害が変わらないと知り、ただじっと黙ってDVや虐待に耐えるしかないと考えるに至ったかもしれません。
風邪が自然と治るように、DV加害者の中からDVが治るということはありません。モラハラ・DV・虐待を防ぐには、何らかの働きかけが必ず必要です。
そして、最も優先的に行わなくてはいけないのは、加害者と被害者を引き離し、連絡を絶つことだと私は思っています。しかし、被害者は加害者を恐れるあまりに自ら関係を断ち切れいない場合があります。縁を切ることを本人たちの力だけで行うには難しいときもあります。
面会交流で再び、加害者と被害者がつながってしまったことで起こった今回の事件。母親へのDVがある場合、本当に子どもの面会交流を行うのが正しいのか、今一度考えなくてはなりません。
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