モラハラ夫になる原因は、妻にはありません。彼らの生育環境までさかのぼって、長年のモラハラ環境により植え付けられた思考や価値観(特権階級)にあると考えられています。
モラハラは、繰り返しモラハラ思考が植え付けられたために「学習」して身につけたものだと考えられます。
モラハラを生む家庭環境にはどういうものがあるのでしょうか?また、その家庭環境で育った加害者たちが抱える問題はどんなものがあるのでしょうか?
1.モラハラ加害者が生まれる原因は生育環境
モラハラ加害者が生まれてしまう原因は、加害者の生育環境が主たる理由だと考えられています。
- 虐待、育児放棄、ネグレクト
- 過度な批判を受ける環境
- 親からの過保護・過干渉
- モラハラの連鎖(モラハラ環境で育てられた)
虐待や育児放棄によって適切な育児や保護を受けられなかった場合、幼少期に事故や災害などで大きなトラウマを負った場合、そして
『親からの過保護・過干渉』
と
『モラハラの連鎖』
です。
1-1.虐待、育児放棄、ネグレクトの家庭で育ったパターン
親がすべての人間関係の始まりであり、赤ちゃんは人間関係のスタートを親との関係から学びます。親が自分に愛情を向けてくれ、困っていた時には手を差し伸べてくれたり、見守ってくれたりすることで、「すべての人間がそうである」と学び、人を信頼する心が育っていきます。
虐待家庭で育つということは、虐待親のような人たちがすべての人間であると学ぶということです。幼いころから暴力や暴言にさらされてきた場合は、「人は信頼できず、自分しか自分を守ることはできない」と学びます。自分を守るためには、人を攻撃しても仕方がないと考えます。
育児放棄やネグレクトで育った場合も同様に、親から適切なアタッチメントが得られないために自分の居場所がない不安定な心理状態を抱えます。
人に媚びたり、過度に合わせることで自分の居場所を確保しようとし、その結果余計なストレスを抱えます。人といると緊張し、リラックスすることができません。
虐待家庭で育った子どもは、人を信頼する心(基本的信頼感)が育たないまま大きくなります。
社会に出てからも、人を信頼することができずに、自分を過度に守ろうとします。
そして自分を守るための攻撃の一種に「モラハラ」があるのです。
1-2.恥をかかされる・強い批判を受ける環境で育ったパターン
幼少期に批判的な親から、人前で怒鳴られる、侮辱される、批判されることを繰り返し受けて育ち、あまりに恥をかかされる経験を積んでしまうと、自分を守るために「ナルシシズム」を獲得してしまうことが分かっています。
ナルシシズムとは、自己愛性パーソナリティ障害の症状の1つです。
恥をかかされてきた子どもは、ありのままの自分は恥ずかしい存在であると思い込み、その思い込みから自分を守るために防衛機制を働かせます。防衛機制とは、自分の心を守るメカニズムのことです。防衛機制により、彼らは自分は本当はこんな人間ではない、もっと素晴らしい人間なのだと妄想し、スーパーヒーローのような理想的な自己像を掲げるようになります。
こうした等身大ではない自己像のため、プライドが高い人間になります。また、恥をかかされてきたことで、恥に対して過剰に反応するようになります。
「恥をかかされた!」と思う場面では、強い攻撃性が現れて、それがモラハラに繋がります。
1-3.両親が不仲でかつ、親から溺愛(過保護・過干渉)される家庭で育ったパターン
まず、基本的にモラハラを引き継ぎやすい家庭の特徴は、両親間が不仲であり「争いの絶えない不安定な家庭環境で過ごした」ことが大きな原因です。
本来家庭が一番安心できる安全基地でなくてはいけません。しかし、最も安心して過ごせる場所でいざこざがある場合、自分が安心して過ごせる場所がどこにもないと思いながら成長することになります。
安心できる家、そこは「自分を守ってくれる場所」です。安定した家庭で育つ子供は、何があっても家に戻ってこれば大丈夫だと知っています。しかし、「自分を守ってくる場所」がない子どもにとって生きていくことは、家のない野生動物と一緒でサバイバルのようなものです。
こうした家庭で育つ子どもは、たとえ虐待者であろうとも強者を模倣し、時には尊敬し、虐待行為を受け継いでいくことが分かっています。
そして、親から溺愛されてきたこともモラハラを生む原因になります。
溺愛というと親から愛されてきたことを想像させますが、溺愛が生むのは無責任な人間です。
たとえば何か問題を起こし、教師から叱られたとしても、親がかばい「あなたは悪くないのよ」と言われることで「自分は悪いことをしても責任を取らなくてもいい」「何かあれば親が代わりに責任を取ってくれる」と学ぶようになります。
モラハラをする人は、基本的に無責任で、どんな結果も他人のせいにする傾向にあります。溺愛されてきたことで、自分の非を認めたり、自分の落ち度を反省することが一切できない人間に成長していきます。
なんでも人に責任転嫁し、自分は決して悪くないという環境で育てられ、自分を省みる機会を全く与えられずに育ってしまった弊害がモラハラといえるでしょう。
甘やかされて育ったために、自分は偉い、特別な存在であると錯覚し、周りを見下して育ちます。自身が問題を起こした場合でも、責任は他人(自分より弱いもの)に押し付けていいと教えられます。
さらに、溺愛は「自分が一番優先されて当然」だという価値観を生み出します。
モラハラをする人には、「特権階級」である意識を持っている人が非常に多いそうです。
モラハラには、誰かをコントロールしたいという欲求が根底にありますが、「自分を一番優先にする」「自分が誰かにとっての一番(褒められる存在)であるのが当たり前」だと思い、そこから外れる行動を取った時にモラハラをしてまで相手を正したり、コントロールしなければ気が済まなくなるのです。
未発達である幼少期にそのように教育されることで、本来は成長とともに発達していく良心が成長せずに停滞します。
ほとんどの場合、大人になってから価値観を大幅に修正することは難しいといえます。「自分が一番」「弱いものには何をしてもいい」と教育されて培った価値観は、人生の中で本人が気づかなければ修正されません。
1-4.両親(もしくは、両親のどちらか)がモラハラ加害者であるパターン
モラハラを引き継ぐ原因の多くは、身近にモラハラをする人がいたために、モラハラを生きる過程で学び身につけてきたことが挙げられます。その場合、身近にいるモラハラをする人は「親」です。
加害者の多くは、自分たちが行っているモラハラを「人から非難されるほど悪いこと」だと思っていません。
なぜなら、生育環境でモラハラがあったために、彼らにとってモラハラは普通のことだからです。
DV加害者のカウンセラーであったバンクロフトは、著書の中にDV加害者がDV加害者からどのようなことを学んで育つのかを書いてきています。そこには、DV加害者がのちの加害者の「手本」となっていることが描かれています。
どういった価値観を学んでしまうのかを著書(DV・虐待加害者の実態を知る)の中から一部引用します。
「悪いのはDV被害者であってDV加害者でない」
「人生での満足感は人を支配し操ることで得られる」
「あなたを愛している人はあなたを虐待してもよい」
また、モラハラをする親は、子どもが親と別の存在であることを認識していないため、子どもの自我が芽生えてくると抑圧し、自我が成長しないように働きかけます。
そのため、モラハラ親がいる家庭環境では、子どもは自分の価値観を成長することができずに親のモラハラ思考パターンをそのまま受け継ぎます。
特に、両親のうち、母親がモラハラ加害者であった場合は、子どもに受け継がれやすいといえます。なぜなら、一般的に父親より母親のが一緒に過ごす時間が長いからです。それだけ強く親の考えを継承しやすく、モラハラが連鎖されやすいと言えます。
モラハラを受け続けた結果、人間関係は支配的なものだと学び、他人のことを「虐げていい存在」であるように認識するようになります。
2.なぜ幼少期に植え付けられたモラハラ思考が改善されないのか
生育環境で身につけたモラハラはアイデンティティの一部
モラハラ加害者の生い立ちによって、モラハラが継承された場合、長い年月の元に培われてきたモラハラの思考パターンは、モラハラ加害者の性格の土台であり、一朝一夕では到底変わるものではありません。
もはやモラハラ加害者のアイデンティティそのものであり、モラハラを治そうとする場合は、アイデンティティの崩壊を招く危険性もはらんでいます。
モラハラ加害者を治そうと努力することは、時には大きな危険もあり、慎重になる必要があります。
モラハラ加害者は反省しないため改善のきっかけがない
モラハラ加害者は自分がするモラハラの原因を「相手(被害者)のせい」だと思っています。被害者が至らないために、モラハラをせざるを得ない状況に追い込まれ、仕方なくモラハラをしてしまっていると思っています。自分の行いを真に反省することはなく、被害者さえ変われば、自分のモラハラもなくなると思っているのです。
モラハラ加害者は「自分こそが被害者だ」と間違って認識しているのです。
たとえ被害者の方から「あなたがやっていることはモラハラよ!」と言おうものであれば、とたんに激怒し、逆に「お前がやっていることがモラハラだ」「俺はこんなに傷ついた!」「お前のせいで俺は病気になった」といって、責任転嫁し、被害者ぶるでしょう。
モラハラ加害者は決して自分のモラハラを反省することはありません。それゆえ、自身で行いを正そうという気は全くなく、周りに指摘されたとしても周りの責任だと思うだけで変わることはありません。
3.モラハラ加害者がパーソナリティ障害を抱えているケースも
モラハラ加害者の中には、人格レベルでモラハラの影響を受けてしまっているケースがあります。
3-1.パーソナリティ障害障害とは?
大多数の人とは違う反応や行動をすることで本人や周りが苦しむことで診断される精神疾患です。
それぞれの種類や特徴は下記のとおりです。(厚生労働省のサイトより抜粋。)
A群(奇妙で風変わりなタイプ)
- 妄想性パーソナリティ障害 (広範な不信感や猜疑心が特徴)
- 統合失調質パーソナリティ障害 (非社交的で他者への関心が乏しいことが特徴)
- 統合失調型パーソナリティ障害* (会話が風変わりで感情の幅が狭く、しばしば適切さを欠くことが特徴)
B群 (感情的で移り気なタイプ)
- 境界性パーソナリティ障害 (感情や対人関係の不安定さ、衝動行為が特徴)
- 自己愛性パーソナリティ障害* (傲慢・尊大な態度を見せ自己評価に強くこだわるのが特徴)
- 反[非]社会性パーソナリティ障害 (反社会的で衝動的、向こうみずの行動が特徴)
- 演技性パーソナリティ障害 (他者の注目を集める派手な外見や演技的行動が特徴)
C群 (不安で内向的であることが特徴)
- 依存性パーソナリティ障害 (他者への過度の依存、孤独に耐えられないことが特徴)
- 強迫性パーソナリティ障害 (融通性がなく、一定の秩序を保つことへの固執(こだわり)が特徴)
- 回避性[不安性]パーソナリティ障害 (自己にまつわる不安や緊張が生じやすいことが特徴)
これらのパーソナリティ障害は人口のおよそ15%に見られると言われており、何らかのパーソナリティ障害を抱える人は決して少なくないと言えます。
3-2.モラハラと自己愛性パーソナリティ障害
上にあげたパーソナリティ障害のうち、『自己愛性パーソナリティ障害』がモラハラの裏に潜んでいることが多いと考えられています。
自己愛性パーソナリティ障害とは、あるがままの自分を受け入れることが出来ずに、誇大化した自己像を抱えている人のことです。
自分はすごい、他者よりもえらいと思い、他人を見下しています。また、プライドが高いため、人から指摘されたり批判されると激怒します。
人との関係は自分にとって利益になるかどうかで判断し、対等で損得のない関係を築くことが出来ません。
他者に対して傲慢な態度をとります。
その他の特徴は下記を参照してください。
3-3.医者も嫌う自己愛性パーソナリティ障害
自己愛性パーソナリティ障害の研究がほとんど進まない理由は、医者が自己愛性パーソナリティ障害の人を嫌う傾向にあることが挙げられます。他人を見下す自己愛性パーソナリティ障害の患者は、自身を治療する医者に対しても攻撃的な態度をとるため、医者も積極的に患者と関わったり、治療を行うことを好みません。
また、治療によって予後が良い境界性パーソナリティー障害などと違い、治療による効果があまり得られないことも理由の一つです。
3-4.自己愛性パーソナリティ障害は治らない
海外では、自己愛性パーソナリティについての臨床や研究が日本より進んでいますが、自己愛性パーソナリティ障害を治す薬として認可されたものはありません。
また、自己愛性パーソナリティ障害は、自分ではなく周囲が変わるべきだと考えているため、治療にかかること自体が困難であると言われています。
さらに、仮に病院にかかったとしても、うつ病や適応障害など別の症状でかかることが多く、自己愛性パーソナリティ障害の治療にまで結びつくケースも極端に少ないと言われています。
4.「お前のせい」はモラハラ加害者の嘘
モラハラ加害者は必ず「お前のせいで、俺は怒鳴るんだ」「俺を怒らせるお前が悪いんだ」というように、モラハラ被害者が原因でモラハラをしてしまうように嘯きます。
しかし、上記のモラハラが生まれる原因からも分かるように、モラハラ加害者が生まれた原因は一朝一夕のものではありません。幼少期からの長い生育環境によって、本来は培われるべき良心が育たずに、心の発育不全ともいうべき結果がモラハラ加害者を生み出すのです。
モラハラ行為の根底には、被害者と会う前の何十年という長いモラハラの積み重ねがあり、その山のように散り積もった被害の結果、モラハラ加害者になったわけです。
モラハラ加害者はあなたと出会う前からモラハラ加害者だったということ、治すことは非常に難しいことを覚えておいてください。
↓パーソナリティ障害のチェック表付きです。目安としてお役立てください。
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