モラハラの主な原因と言われている自己愛性パーソナリティ障害。
多くの場合、自己愛性パーソナリティ障害の人は、配偶者ですら召使や奴隷のように思っており、夫婦関係や家族関係が破綻しやすいと言えます。
もし、パートナーが自己愛性パーソナリティ障害であれば、安らぎや安寧とは程遠い殺伐とした結婚生活を送ることになります。
結婚した後、配偶者が自己愛性パーソナリティ障害であることに気づき、モラハラ被害を受けていたとしたら、それを理由に離婚をすることができるのでしょうか?
1.自己愛性パーソナリティ障害の人は、離婚原因が自分にあるとは決して認めない!
自己愛性パーソナリティ障害の人は、妻や家族の苦しみを理解できません。常に「自分が正しく」自分の意に反することをする家族のことを「間違っている」と思っています。その誤りを正すためにモラハラをしているので、正当性のあるものだとも思っています。
しかし、実際に配偶者や家族は自己愛性パーソナリティ障害の人から暴言を浴びせられたり、罵倒されたり、病気のときも愛情をかけられることなく放置されたり、苦しむケースが多くあります。
そしてそのことを訴えても、絶対に自分が正しいと信じて疑わない自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分の過ちを認めることはありませんし、むしろ家族の方がおかしいと本気で信じているのです。
そのため、妻が「離婚したい」と言おうものなら、「正当な理由もないのに突然離婚を切り出された!」と受け取り、なにがなんでも離婚にならないよう反発します。
話し合いを拒否されたり、あり得ないほどの不利な条件を突きつけることもあります。
自己愛性パーソナリティ障害の人との離婚は多くの場合、話し合いで解決できません。
それでは、家庭裁判所の制度を使って離婚をすることになります。しかし、どちらか片方が離婚を拒否している場合は離婚には正当な理由が無くてはいけません。
2.民法で定められている離婚理由
法律で定められている離婚理由には次のようなものがあります。これらに該当する場合は、法的にも離婚が認められるということです。
- 配偶者に不貞な行為があったとき。
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
(引用:民法770条)
この中で、該当しそうなものといえば、4番の「強度の精神病」です。自己愛性パーソナリティ障害は「強度の精神病」といえるのでしょうか?
3.強度の精神病とは?
民法で定められている離婚原因に記載されている「強度の精神病」とは、ただの精神疾患では認められないようです。回復の見込みがないものとされ、統合失調症や躁うつ病などが該当し、依存症や認知症などは当てはまらないようです。
つまり、自己愛性パーソナリティ障害も民法に定めら得ている「強度の精神病」とはいいがたく、4番には当てはまらないと言えるでしょう。
4.自己愛性パーソナリティ障害の人と離婚するためには?
4-1.いかに「婚姻を継続しがたい重大な事由」であるかを訴える
自己愛性パーソナリティ障害というだけでは、残念ながら民法で定められている離婚原因には該当しません。
自己愛性パーソナリティ障害の人との結婚生活が苦痛なのは、モラハラを含めた攻撃を受けているからです。受けているモラハラのエピソードを訴えて、どれほど婚姻を継続しがたいのかを裁判所にわかってもらう必要があります。
受けてきたモラハラ被害が「婚姻を継続しがたい重大な事由」だと認められれば離婚することができます。
4-2.婚姻関係の破綻を証明する
もし、モラハラのエピソードが「婚姻を継続しがたい重大な事由」とは言えないと見なされてしまえば、離婚はできないのでしょうか?
いいえ、そうではありません。
「すでに婚姻関係が破綻している」ことも、離婚理由として認められます。そのためには、婚姻関係の破綻を証明しなくてはいけません。
そのためには、別居をして実績を作ることです。夫婦には「相互扶助義務」といって、お互いに支え合うことが義務付けられています。別居をしていれば、この「相互扶助義務」が成り立っておらず、夫婦関係が破綻していると認められるのです。
しかし、1年程の別居期間では「婚姻関係の破綻」とはいいがたく、数年~10数年ほどの別居の実績が必要になる場合があります。
5.自己愛性パーソナリティ障害と離婚の話し合いをすることは難しい
自己愛性パーソナリティ障害の人が離婚をしたくないと思っている場合は、何としてでもあなたの気持ちを変えさせようと時には思いがけない行動に出ることがあります。もし離婚をしたいと思っている場合でも、突然出て行けと家を追い出したり、普通では考えられない離婚条件を突き付けてきます。
直接離婚の話し合いをすることは不可能だと考えたほうがいいでしょう。
また自己愛憤怒という爆発的な怒り方で命にかかわる事件に発展していく可能性もあります。時には相手からしつこく直接会うことを求められても、家庭裁判所や弁護士を通すなどして身を守ることを優先させましょう。
6.お互いが「離婚」を希望していれば離婚は可能だが、必ず条件を決めてから離婚しよう!
双方が離婚を希望している場は、すぐにでも離婚が可能ですが
離婚するにあたって
- 子どもの親権者(子どもが成人していない場合)
- 財産分与
- 面会交流
- 養育費
等を決めておかなくてはいけません。必ず離婚条件を決めてから離婚届けを出してください。先に離婚届けを出してしまうと、離婚の話し合いができなかったり、悪い離婚条件で合意しなくてはならない、お金が全くもらえないなど不利益を被ることがあります。
7.家庭裁判所で夫からの精神的苦痛を訴える時の注意点!
7-1.モラハラの証拠を残そう!
家庭裁判所の調停制度や裁判を利用して離婚をする場合、必ず精神的苦痛の証拠を用意しなくてはいけません。
ただ口頭で、こんなひどいことを言われたのですよとエピソードを伝えたところで、証拠がなければモラハラ被害を認めてもらうことはできません。
モラハラ被害の証拠となるものは、
- モラハラを録音・録画した音声や映像
- 相手からの手紙やメール
- クリニックなどを受診した記録や診断書
- 公的機関への相談記録
- 毎日つけていた日記
- 第三者の証言
等が認められます。証拠は確実に確保しておきましょう。
7-2.自己愛性パーソナリティ障害やモラハラは認知度が低い
そして、現在の家庭裁判所では、「自己愛性パーソナリティ障害」や「モラハラ」という単語が何を指しているのか認知されていません。そのため、文献などを裁判所に提示し、そこに載っているエピソードと実際にあなたが被害に遭ったエピソードを照らし合わせて、この本にも載っているようなことがありましたと立証していく作業が必要になります。
また、エピソードを伝えるときには、「いつ、どこで、だれが、どうやって、なにをした」のように具体的に伝えていく必要があります。
昔にあったモラハラエピソードなどはしっかりと覚えているようなことも少ないと思いますので、陳述書を作成するためにも、毎日日記をつけたり、音声を残しておくことは大事でしょう。
7-3.できれば弁護士を雇って!
自己愛性パーソナリティ障害の人との離婚は、たとえ相手が離婚に同意をしていたとしても困難を極めます。無いことないことを事実のように言ってきたり、自分がしたことをあなたがしたことのように偽装したり、お金を隠し、子どもの親権をなにがなんでも奪おうとしてくるのがセオリーです。
自分を守ることが難しいと判断した場合には、モラハラに強い弁護士に相談し、一緒に戦ってもらうことも必要です。
8.離婚は知識が命!しっかりと下調べや準備をしましょう!
いくら弁護士に依頼をするから、裁判所の制度を活用するからと言って、何も知らないまま離婚条件の話し合いをするのはNGです。
知識は武器です。離婚では知識だけがあなたの身を守ってくれるものです。
何も知らないまま離婚条件を決めてしまえば、離婚が成立した後に、「こんなはずでは…」と後悔することになってしまいかねません。離婚後の未来を明るいものにするためにも、インターネットで他の人の離婚体験談を調べたり、離婚に関する本を読んだり、弁護士に聞いたりして離婚の知識を身につけてくださいね。
まとめ
あなたが受けたモラハラの被害を理解してもらうことが、モラハラ被害から回復するためにも必要です。離婚の際には、不用意に周囲から傷つけられないためにも、どういったエピソードを伝えればモラハラで受けた精神的苦痛が伝わるのかをよく考えなくてはいけません。
モラハラに強い弁護士もいます。モラハラ離婚に強い弁護士は、自己愛性パーソナリティ障害の人との戦い方を熟知しています。出来れば一人で戦おうとするのではなく、専門家や周囲に助けを求めてください。
あなたの未来が良いものになるよう願っています。
コメント